仮剥製
動物から骨を取り出してばかりの私は、皮の保存についてよく分かりません。今まで皮は破棄していたのですが最近になって、「骨と皮、両方とれるようになったらなぁ」と皮にも興味を持つようになりました。
そこで「動物の皮がキレイにとれて、動物の形が残る「仮剥製」というものを作ってみたい」と思い、本やネットで調べてみても分からなかったので、作り方を教えてもらってきました。
その一匹目…
難しい!皮の切り口を縫ったり、綿を詰めたりで家庭科の授業のようでした。ぬいぐるみにしてはいけないのですが、ぬいぐるみに綿を詰める感じ。皮はキレイに剥けたのですが、いじくってるうちに皮に穴が開き、足は斜めになり…。
時間があったので、二匹目の許可をいただき再チャレンジ…
一匹目との差がすごい!二匹目はそれなりに上手くいって安心。一匹目は綿を詰めすぎて失敗したので、今回は少なめに。乾いたときにどうなるだろうか…。
二匹目はだいたい45分くらいで形にしたのですが、ある研究者はこれを14分で作るそうです。速い。
オブトアレチネズミの耳
オブトアレチネズミというネズミをご存知でしょうか。「JULIET CLUTTON-BROCK.2005.世界哺乳類図鑑 新樹社」では、サハラ砂漠に生息するネズミで、体の脂肪を尾に蓄える奇妙な特性を持つネズミだそうだ。私はテレビで観たことがあって、尾がプニプニとしたこん棒のようだった。
そんなネズミを骨にする機会があった。外見はハムスターにこん棒状の尾を付けたような見た目だった。尾以外、印象的ではなかった。
しかし、骨にしたら頭蓋骨の形が想像以上に奇妙だった。
左からオブトアレチネズミ、ラット、マウスの頭蓋骨。ラット・マウスが見慣れている私にとって、お尻のような頭をしたオブトアレチネズミは異様だった。
近くで見てみるとこんな感じ。
これはラット。すっきりした顔をしている。
ラットと比較して分かるのが鼓室という部分がオブトアレチネズミは発達していることだ。
赤丸で囲った部分が鼓室で耳に関する部分。私達が普段目にする耳は耳殻(じかく)といって軟骨で出来てるので骨にするときは除去してしまう。
じゃあ何故、オブトアレチネズミは鼓室が大きいのか。とても聴力が優れているんだろうなと検討はつくが、調べてみた。
オブトアレチネズミの骨に関する資料が手元になかったので、「MARK ELBROCH.2006.ANIMAL SKULLS:A Guide to North American Species,302 pp.」にオブトアレチネズミと似たような頭蓋骨をしたKangaroo rat を参考にし、読んでみた。結局、「鼓膜の後ろの空間を増加させてフクロウの襲撃を察知できるようにしたと考えられる」と書いてあった。
JULIET CLUTTON-BROCK.2005.世界哺乳類図鑑 新樹社」には広範囲の低周波数の音を聞き取ることができると書いてあるので、鼓室が大きいのはここで反響させるためなんだと納得した。
オブトアレチネズミは特別耳が大きいわけではなかったので、聴力が良いとは思いもしなかった。キツネは動物が出した音の位置を特定するために耳が大きく、それを見て「耳が大きい動物は聴力が良く、耳が小さい動物は特別聴力が良いわけではない」と思っていたが、音のとらえ方でどこが発達するかが変わるのではないだろうか。
歯から動物を判明させる
一見同じように見える動物でも骨や歯をじっくり観察すると何の動物だか分かることがある。
大学の研究室に所属していた時に先輩からアルコール浸け保存されていたネズミをいただいた。そのネズミは腐敗が進んでいて全身の毛が抜け落ちてヌードマウスのようで、筋肉が分解されていたのか全く無く潤いのあるミイラだった。ただでさえ、小型のげっ歯類は皆同じ見た目なのに、これではもう分からない。
途方に暮れていた時に、フクロウの研究をしていた先輩が歯からネズミを同定していたことを思い出し、骨にしてから歯を観察することにした。
骨にしたネズミの1.5cmあるかないかぐらいの下顎はとても見にくかった。種類を判別するために「リス・ネズミハンドブック 文一総合出版」の写真と下顎を肉眼で観察した。1時間くらい悩んだが小さすぎて分からない。
分からなかったことをここに書こうと写真を撮り、編集するために拡大したら分かった。最初から写真で拡大すれば良かった。
問題のネズミ左の黄緑色の帯状にある写真で、右が歯の形状の違いを示すためにラットの下顎を載せた。
左の歯がブラシ状になっているのはハタネズミだ…と思う。ハンドブックの写真と見比べてみても似ているのでたぶんそう。
歯から動物が同定できるのは面白いと感じるが、ハンドブックを眺めていると違いが分からない歯もあるので、体の計測値や採取場所の環境などのデータを複合して判断するのが適切かな?
骨の縫合の話 2
縫合の話で私が面白いと感じていることに、縫合で動物の年齢を推定しようとする研究や、縫合から年齢が推定できる手法を用いて新たな研究が行われていることがあります。
その例として「加藤卓也.2012.神奈川県の野生化アライグマにおける繁殖生物学的特性:メスの出産時期は初産にどのような影響を与えるか?.日獣生大研報61,10-15」や「永山雅・姉崎智子.2011.ハクビシンの犬歯に形成されるセメント質年輪と頭蓋骨,四肢骨,寛骨癒合状況の関係.群馬県立自然史博物館研究報告(15),181-187」を読むと縫合を用いて研究していることがうかがえると思う。この論文は誰でも閲覧が可能だったので紹介しました。タイトルを入力して検索するとすぐに出てきます。
他にも縫合について検索していたところ、「高橋啓一・薄井重雄・落合啓二.2014.ニホンジカ冠状縫合の性差と個体成長ーシカ化石の分類のための基礎研究ー.千葉県立中央博自然誌研究報告13(1),1-27」に載っている図1を見ていて思い出したことがあります(この論文のp3にも書いてあることですが)。この論文も誰でも閲覧が可能です。
私が骨の勉強をする前に大学の先生から「頭蓋骨の縫合は年齢と共に複雑化する」と言われたことがありました。動物は下の写真のように縫合が複雑化していくそうです。
論文を拡大して図をじっくり眺めていただけると分かると思います。
頭骨を見てそれがどんな動物かわかるだけでなく年齢まで推定できることに、また骨の面白さを感じます。
骨の縫合の話 1
昨日(と言っても日付的には今日)書いた記事に「ヒト・カンガルー・コウモリの体作りのお話があった」と書きながら、人には全く触れてなかったのは、縫合についてしっかり書きたかったからです。決して昨日まとめきれなかったからではないです。
「赤ん坊の頭はペコペコする」と聞いたことがあると思います。それは頭蓋骨にある縫い目のような縫合が閉じていないからです。ヒトが脳を大きくさせてきたので、その大きな頭では産道を通るのが難しいです。なので、頭が完全に発達する前、頭の縫合が閉じない、頭の形を変形させながら産道を通ることが出来るように未熟な状態で産まれるそうです。
ヒト以外の動物にも縫合はあります。頭蓋骨は一枚の骨ではなく複数の骨から出来ています。これが大人になるにつれて骨が癒合していきます。ヒトは出生後、大きな穴が確認できる程、頭蓋骨が癒合してませんが、ヒト以外の動物は完全に癒合はしていないものの、縫合がすでに合わさっている状態だそうです。
頭以外の骨も実は細かい骨に別れています。下の写真はブタ幼獣の骨ですが背骨(胸椎)の脊柱に線が入っています。黄色い点線のような線が赤丸で囲った部分に見えますでしょうか。まだ個々の骨が癒合しておらず、バラバラになります。
人間は大人よりも子供の方が骨の数が多いとはこのことです。これが成長するにつれて少なくなっていきます。ヒトの子供では数え方にもよりますが、骨の数は206個と言われています。なので、このブログのIDに206を入れてみました。
骨の縫合はまだ面白いことがあるので、明日もそのことについて書きたいと思います。
博物学に学ぶ進化と多様性 聴講
東京大学駒場博物館で開催されている特別展「博物学に学ぶ進化と多様性」の市民公開講座「博物標本から進化を語る」を聞いてきました。
骨が好きなので「ホネから探る動物の暮らしと体作りの進化」という題の講演は特に熱心に聞きました。
このお話では「動物の体作りの順番は生後にどういう生活を送るかに左右される」ということが結論でした。冒頭で演者の方は「同じものを集めることの意味は?と聞かれることがある」と話し、その答えの述べずに進行していきます。
基本的に動物の体は「巣」の有無で晩成(例:ヒト)か早成(例:シカ)か左右され、体が大きいほど妊娠期間がながくなる(有袋類は例外)というお話の後にヒト・カンガルー・コウモリに焦点を当てて進行していきました。
胎子の前肢・後肢は同じような比率で成長していくそうですが、カンガルーやコウモリは違うそうです。出生直後のカンガルーが動く映像が流れたのですが、それは前肢が発達しており、後肢が確認できない程未発達な不思議な形をした幼獣が映っていました。
こんな感じの・・・。
前肢が発達しているのは子供が母親の袋を目指して体をよじ登るから前肢を重点的に発達させ、後肢を後回しにしているそうです。この話は今年の4月頃に出版された「有袋類学 遠藤秀紀著」にもありますが、まさかここまで後肢が未発達だとは衝撃でした。
では、コウモリは?前肢が発達するのかと思いきや後肢が発達するそうで、これは生まれてもすぐに飛べるわけではなく、母体にしがみつくために後肢を発達させるとのことです。
講演の冒頭の「同じものを集めることの意味」は「一見どれも同じに見える標本を集め、比較することでこの成長過程の違いが明らかになる」というのが答えでしょう。
標本を集め比較することにはまた別の意味もあります。この講演では種の比較でしたが、過去と現在、地域の比較もあります。一度集めない期間があると、もうどうやっても過去は取り戻せません。その動物があの時どんな生活をしていて、今に繋がっているのか知る術を無くします。また、例えば、「シカのことを知りたければシカだけ集めて、昆虫の標本はいらないんじゃないか?」と思われるかもしれませんが、シカを知るには植物を見る必要があり、その植物が昆虫と密接に関わっていたりします。全く無関係そうに見える動物がどこかで関わるので、何かを明らかにするには多くの標本が必要になります。なので、一見無駄に見えてもそれは無駄ではないのです。
マウス完成
マウスが骨になりました。
友人にニワトリ骨格をあげる約束をしていて、そのニワトリがボロボロだったので、お詫びとしてマウスの骨を作っていました。
朝にはボンドが固まっていると思うので、この状態で作業を終えます。
ニワトリの骨がボロボロなのは、産卵鶏だったからカルシウム不足になっていたでしょう。たぶん。
鶏を研究している研究者の方に聞いてみたら、「骨がボロボロな鶏は結構いるよ。特に産卵鶏は。」と仰っていたので、たぶんそう。