骨のある部屋

@honebeya206

「専門バカ」はなぜダメなのか

 ある学生から、「他大学の大学院を受けるために、希望する研究室の教授に話を聞いてきた人」の話を聞いた。その学生は先生から「専門バカはいらない」と言われたそうだ。

 私はそれを聞いて「鳥類学者の川上先生のように、映画やアニメにも関心がなければ一般の人に研究内容を話す時に惹きこめないから?友達といても同じ話題ばかりより、色んな話をしていた方が楽しいから、人付き合いのために必要なのかな?」などと考えていた。

 

 そんな話をしていたことも忘れるくらい日が経ってから出会った本に「専門バカ」じゃダメな理由を見つけた(と思ってる)。

 その本は「ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ ハイテク海洋動物学への招待(佐藤克文 著)」というタイトルの本で、研究内容の話だけではなく、研究生活で体験した人の考え方の違いや、南極観測の歴史(ちょっとだけ)についても書いてあって、飽きずに読めた本だった。

 

 

 

 佐藤さんはウミガメとペンギンの水中にいる時の体温の変化について研究していた。爬虫類は変温動物で鳥類は恒温動物と聞いたことがあると思う。しかし、これは水中では爬虫類が恒温動物(厳密に書くと定温動物)で鳥類が変温動物になってしまうそう(*胃内温度測定の結果)。ウミガメとペンギンの体温の変化を佐藤さんは下記のように説明していた。

 

【ウミガメ】p22くらいに書いてあった

 水中で定温動物だったのは、体内で生み出される代謝熱を使って体温を水温よりも高く維持していたため。

 寒い日に温かい小さな缶と温かい大きな缶を放置すると、小さい方が先に冷たくなる。体サイズが大きなカメほど熱の逃げる速度が遅いため、体温を水温より高く維持できる。

 

【ペンギン】p36くらいに書いてあった

 潜水するには酸素消費を抑える必要があり、よく動かすヒレは酸素を必要とするが、胃は運動には必要ないのでそこに酸素を持ってくる必要はない。酸素消費量節約のため腹腔内の温度を下げている。

 

 このように研究で得られた結果を説明するのに生理学の話だけでなく、物理学の話を持ち出していた。この他にもペンギンの潜水深度に応じて吸い込む空気量の変化についてボイルの法則を持ち出して説明していた。詳しくは本を読んでほしい。

 きっと私がウミガメとペンギンの研究をしていたら、物理学を持ち出して結果を説明することが出来なかっただろう。「専門バカ」ではダメな理由は「研究の結果を正しいと思わせるように考察するために、色んな引き出しを持ちなさい」という意味だと感じた。

 

 ある政治家が「〇〇なんて生活の中で使わない」と少し前に発言したそうだ。私も中学生の時に「生きてて使わないのになんで勉強するのだろう」と不満を漏らしていた。佐藤さんの本を読んで「「使わない」のではなく、「知らないから使えない」、使えないのを使わないと錯覚しているだけなのでは」と考えるようになった。今も自分の認知できない範囲で、世の中は面白い法則で満たされているのだろうか。

f:id:honebeya206:20190205095241j:plain